ECBが利上げへの方針転換を迫られたきっかけは、ユーロ圏の12月消費者物価指数(HICP)の前年比が2.2%の上昇率となり、ECBが誘導目標として掲げている「2%未満で2%近く」を2年ぶりに上回ったことである。ただ、この結果が発表された1月時点では、インフレ懸念は短期的なものと見なされていたため、市場の利上げ予想は2012年から2011年末への前倒しとの見方が主流だった。
市場ではECBの利上げ期待に対し、ユーロ圏経済の回復力が弱いことや、財政難に苦しんでいるユーロ圏の国々の内需回復が不透明であったことなどから慎重な見方が続いたと思われる。その後、中東や北アフリカでの民主化デモによる政治の混迷で原油価格が高騰したことを受け、利上げ予想は7~9月に前倒しされた。
しかし、ECBの4月利上げ予想を市場が織り込んだ最大の決定打は、3月3日のECB理事会後のトリシェECB総裁の記者会見である。ECBが景気回復に貢献できるのは、物価安定の確保を通じてのみと認識し、「物価安定が唯一の政策目標」との基本方針を貫く姿勢を示したことにある。特に低所得者層に対して、物価上昇が購買力低下を招くリスクになりつつあることを指摘している。4月利上げについて確約したものではないとされたが、ユーロ圏の3月消費者物価指数(速報値)で前年比2.6%と市場予想を上回り29カ月ぶりとなる高水準となっていることから、原油価格が急落するなどインフレ圧力を大幅に低下させる材料が出てこなければ、7日のECB定例理事会で25bpの利上げの可能性は高い。
ただ、利上げが決定された後、トリシェ総裁は追加利上げについて否定していないものの「連続利上げの開始ではない」と発言している。4月に利上げを決定すれば、5月や6月と追加利上げの可能性は殆どなくなる。ここで疑問もある。
一度の利上げでECBの思惑通りインフレ率を低下させることができるのかという疑問である。インフレ率上昇の原因は、原油や商品そして食品価格の上昇という供給側の問題であり、またユーロ圏内の数カ国で行われた財政健全化のためのVAT(付加価値税)の引き上げなども原因である。
またユーロ圏では、ポルトガルの財政懸念が直近の課題である。ポルトガルは4~6月期に7億5,000万ユーロから10億ユーロの短期国債の入札を発表したが、国債利回りは上昇が続いている。ユーロ圏内の国々への格付け会社の格下げなども含め、ソブリンリスクが再燃する可能性がある。英国でも5月はイングランド銀行(BOE)の利上げが囁かれ、米国でも6月末に量的緩和(QE2)の期間満了が予定されている。急上昇したユーロを利上げ期待だけでさらに買い進むにはリスクが高いと見ている。ECBの定例理事会を前後してユーロの上値は重くなると見ており、ユーロの上昇局面は売りポジションの構築局面とみている。




